過去の半減期事例から見る、ビットコイン半減期と価格の動向について
ビットコインの半減期が刻一刻と近づいてきています。ビットコインの半減期が価格にどのような影響をもたらすのか気になるポイントではないでしょうか。
そこで今回は、株式会社クリプタクトの斎藤様に「ビットコインにおける半減期と価格の動向」について寄稿いただきました。
皆さん、こんにちは。株式会社クリプタクトの斎藤です。来週に起きると想定されるビットコインの半減期ですが、過去の半減期前後における価格動向と今回の動向について私見をまとめてみました。なお、本ブログは 2020 年 4 月 28 日にクリプタクトジャーナルで公開した記事のマーケット情報をアップデートしたリライト版となります。
一般的に市場では半減期前後でビットコインの価格は上がるといわれていますね。果たしてそれが本当かどうか、過去の事例を見ながらその検証を背景となる考えについて触れつつ行いたいと思います。加えて、今回の半減期においても同じ話が当てはまるかどうか、なども見ていきたいと思います。
過去のビットコインの半減期
ビットコインはこれまでに 2 度半減期を迎えております。最初の半減期は 2012 年 11 月 28 日で、2 回目は 2016 年 7 月 9 日でした。ビットコインは 2009 年 1 月に最初のブロックが生成されましたが、当初のマイニングによるブロック報酬は 50 BTC ありました。2 度の半減期を経過することで、50 BTC → 25 BTC → 12.5 BTC とブロック報酬は下がっています。そして 3 回目が 2020 年 5 月 12 日にあると予想されています。
過去 2 回の半減期における、前後 3 カ月と前後 1 年のビットコイン価格の動向について調べてみました。ただ最初の半減期についてはデータが十分に取得できず、前後 3 カ月のみとなっています。図表 1 は最初の半減期の前後 3 カ月のビットコイン価格のグラフです。図表 2 は 2 回目の半減期の前後 1 年、図表 3 は 2 回目の前後 3 カ月となります。
図表 1 をご覧ください。最初の半減期ですが、半減期を迎えるまで価格はほぼ横ばいでした。そして半減期以降は徐々に上がり始め、1 か月経過した頃からさらに価格上昇しています。最終的に前後 3 カ月の期間で価格は 4 倍弱に上昇しました。
2 回目の半減期はどうでしょうか。図表 2 をご覧いただくと、前後 1 年ではビットコイン価格は 5 ~ 6 倍に上昇しています。ただし、2017 年についてはご存じの通り仮想通貨全体がバブルともいえる様相を見せていたので、必ずしもこの上昇要因は半減期だけではないでしょう。そのため最初の半減期と同様、前後 3 カ月でみてみたいと思います。
図表 3 をご覧ください。この時は半減期の 2 カ月くらい前から価格が上昇し、半減期 1 か月前の頃にいったんピークをつけています。半減期を迎えてからは約 1 か月後に価格は大きく下がっており、その後徐々に回復していきました。
このように最初の半減期では、半減期後に素直に価格上昇が起きました。しかし、2 回目においては「半減期=価格上昇」が強く意識されたのか、先に価格上昇を織り込みにいった可能性があります。
半減期=価格上昇の背景
半減期になると価格が上昇すると言われるのは、いったいなぜでしょうか。よく言われる話としては、マイナーが得たブロック報酬分のビットコインの換金売りの数量が減るから、というものです。マイナーは電力を消費してブロックを掘りビットコインを報酬として得ます。
当然収益を得るためにも、報酬で得たビットコインを換金する必要があります。その売却するビットコインの数量が半分に減るため、売買の需給が引き締まる、というものです。そしてこの説を裏付けるかのように、実際に過去の半減期においても価格上昇の傾向があったため、半減期=価格上昇という考えが浸透したのだと思います。
確かに半減期によってマイナーによる換金売りの枚数は減ります。そのため売り手減少による価格上昇効果は一定程度確かなものと考えられます。しかし、売買の需給に視点を置いた考え方であるため、この枚数減少分が本当に実際のビットコインの流動性に対して影響があるのかどうか、冷静に判断する必要があります。
現在のブロック報酬は 12.5 枚ですが、2020 年 5 月以降はこれが 6.25 枚に減少します。ブロック生成の間隔は平均 10 分に 1 回なので、仮にブロック報酬を得たマイナーが 10 分に 1 回これらのビットコインを売却していたとして、その枚数が減少する分である 6.25 枚が売りとして出てこなくなったことがどの程度価格に影響を与えるのか。需給をベースに考える場合は、この点は考慮しておく必要があると思います。世界全体で見ればそれほど大きな影響はないのではないでしょうか。
ビットコインは価格自体が過去に比べて大きく値上がりしていますが、ビットコイン建の流動性も過去の半減期に比べると増えていると思います。さらに、半減期における売り圧力の減少分が絶対値としても少なくなってきています。
このことから、流動性対比で売買の需給に与える影響度は過去と比べて相当小さくなっている可能性は十分あると思います。つまり、引き続き売り圧力低下という価格上昇にとってプラス側面はあるものの、実際の需給におけるプラス影響はかつてに比べると格段に小さくなっている可能性がある、ということです。
他の説として、「価格が上がらないと採算が悪化することからコストベースの観点で価格上がらないと採掘が成立しない。電気代を考えた最低採算ラインまで価格が上がる。」といったマイナー側の論理に寄った話もあります。ただこれはマイナー側の希望に近い話ではあるので、これが理由で価格が上がるというのはやや説得力に欠けるでしょう。
例えば最近の原油市場がいい例だと思いますが、原油価格が生産における採算ラインを下回るなどしており、生産側の論理が必ずしも通用していません。同じことはビットコインでも当てはまると考えられ、むしろ価格上昇しない場合はマイナーの撤退などによるハッシュレートの減少と結果的に生じる難易度調整によっての採算性向上のほうが可能性は高そうです。
このように、半減期とそれによる価格上昇は必ずしも否定される内容ではないものの、本質的な影響という意味ではなかなか説明することが難しく、どちらかといえば過去 2 回における価格動向を前提とした観点が強いと思われます。ただ、ビットコインの価格は現状の需給やその背後にある思惑が全てでもあり、その観点でいうと半減期=価格上昇という思惑が強く働くのであれば結果的にそれを自己実現する可能性は十分にあると思います。
なお、この思惑による価格動向が主たる要因であったとする場合、これがどの程度織り込まれているか、というのは気を付けるべきことになります。このような投資家側の意識が強く働く市場では、いかにあるイベントが織り込まれてるかというのが重要な点です。
一般的に同種のイベントが繰り返されるうちに織り込まれる時期が早まったり、あるいはイベントまでに何度かこの半減期の話で盛り上がったり忘れたり、と繰り返されるようになります。最初の半減期と 2 回目の半減期における価格上昇の仕方の違いなどがそれを示しており、3 回目である今回はさらに様々な思惑が絡みやすいと思います。
結局は投資家がどの程度半減期を意識しているか、あることを知っているのはほぼ全員だと思いますが、それをどの程度今の取引で意識しているかによって半減期直前及び直後での価格動向は変わりそうです。最近はコロナの話題で持ちきりでもあり、半減期の話を強くする機会が減ってきていました。年初にはすでに意識されてきたことではあるものの、いったんコロナで風化されそうになっていました。
そんな中、必ずしも半減期要因とは限らないのですが、やや後付けでも 4 月末からの上昇において再度意識されているようには思います。2 回目の半減期における動きをみると、半減期前に一度あがった局面ではその後の短期間は下値警戒が必要になるかもしれません。
BCH及びBSVの例
直近では、BCH が 4 月 8 日、BSV が 4 月 10 日に半減期を迎えました。ビットコインから分岐したこれらの仮想通貨が半減期以降どのような価格推移をしているか、同様に前後3 カ月でグラフにしたのが図表 4 及び図表 5 となります。
仮想通貨に限らず、コロナの影響で世界的に多くの資産価格が下落していたこともあり、必ずしも半減期のみの切り口で語れる期間ではないのですが、BCH や BSV の動向をみていると、2 ~ 3 カ月前の時点で価格はピークをつけており、その後半減期の 1 か月前まで下がり続け、その後は半減期以降も価格をやや戻している、という動きをしております。2016 年の半減期における動き(ピーク→下落→回復)がさらに早まったような印象でもあり、織り込まれ方が早まっている印象を受けます。
マイナーの視点で言えば、BCH や BSV の採算性が半減期後に悪化するとビットコインの採掘に寄せることができたのですが、今回のビットコインの半減期後はそういう逃げ場がないともいえるので、BTC、BCH、BSV のいずれの採算性も悪化した場合のハッシュレートの影響は気になるところです。
価格上昇がなかった場合
どの程度の時間軸での話をするかにもよりますが、半減期以降でもビットコインの価格上昇がみられなかった場合について簡単に考えてみたいと思います。
前回の半減期と比較すると、今回はマイナーの数は多く裾野はとても広いです。半減期で価格上がらないと、当然こういったマイナーの採算性は悪化しますので、場合によっては電気代に見合わないなど撤退や新規参入の減少などが相次ぐ可能性があります。その場合、ハッシュレートが下がることになりますが、これも傾向としてはハッシュレートが下がっていくとそれに応じて価格も下がっていく傾向があり、それがまたさらなるハッシュレート減少に繋がる可能性があります。
ただ、ハッシュレート減少によって難易度調整も行われるため、どこかの時点ではコストとリターンのバランスがとれて、ハッシュレートや価格は落ち着くだろうと思います。そのためビットコインそのものについての懸念は特にないのですが、この間のハッシュレート減少によるブロックチェーンセキュリティの影響や、そもそも価格の動向は正直に言って非常に読みづらいです。
半減期まで約 1 週間となり、直近 1 週間で上がっていたことを考えると、短期的には下値の警戒が必要かと思います。中期的にはハッシュレートを横目で見ながら、それによって方向性が変わることへの意識も必要でしょう。
一方で、長期的な視点で見るのであれば半減期イベント自体が大きな影響を与えることはなく、むしろビットコインそのものの使われ方などの話がよほど大きな影響あるのかな、というのが個人的な見解となります。
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